綜説 <社会小児科学>

 

1患者/1カルテ/1地域/1インターフェイスの観点からみる21世紀の病院医療

梶ヶ谷保彦

Hospital medical care of the 21st century from the viewpoint of 1 patient /1 record /1 area /1 interface system

 

要    旨

インターネットによる情報技術革命が進行しつつある変革の時期に21世紀を迎え,医療の分野でもこれまでの1患者/1カルテといった旧来の医療機能評価基準が医療情報デジタル化により1患者/1カルテ/1地域()/1インターフェイスによる医療という基準に昇華されてくる.この観点から21世紀の医療として展望されることとして,@医療情報を共有できることが患者受療行動に影響し新しいマーケットメカニズムが発生すること.A安価なシングルインターフェイス・コンピューティングにより医療経費の削減がはかられること.BDRG-PPSが完全デジタル化され病院経営の効率化と医療保険制度改革がすすむことが予想される.このような展望から21世紀の病院では医療情報公開に関する医師の意識改革と医療情報の電子化環境作りが病院の存続を左右してくるものと考えられる.

 

は じ め に

1990年代の医療保険制度改革では薬価の引き下げ策を中心に,病診連携やクリティカルパスなどの概念が実際の診療報酬制度に反映されてきた.一方,カルテ開示による医療情報公開も進みつつあり医療提供者側の意識改革も迫られてきている.そして社会全体ではインターネットを中心に情報技術革命が進行しつつある.こういった変革の時期に21世紀を迎え,当然,1患者/1カルテといった旧来の医療機能評価基準も電子カルテ1,2,3)ICカード健康保険証の標準化により1患者/1カルテ/1地域()/1インターフェイスという基準に昇華されてくる(1).この基準のもと病診連携医療とDRS/PPS (Diagnosis Related Groups / Prospective Payment System) 医療もデジタル化され医療効率の改善が期待される.今回はこの観点により将来の医療を展望した.

健康保険証のICカード化

厚生省は2001年度にも健康保険証のカード化を導入し,1人に1枚を配布する検討に入った.このことは人手による医事情報の入力を省き医療提供者側の大幅な人件経費削減に結びつくことで総医療費の抑制が期待されることと,ICカードへのカルテ医療情報の転送機能の有無は,国民も認識できる医療機能評価基準となり,医療機関が情報共有できる電子システムを持っていることは患者の受療行動を左右し,新しいマーケットメカニズムが発生すると予想される(1)

電子カルテの在り方と問題点

そこで医療提供側が電子カルテシステムを使い,ICカードとの情報送受できることが新しいマーケットに対応する手段に,当然,なってくる.以前に筆者は,「独自の電子サマリーWeb化から考察される電子カルテの在り方と問題点」と題した報告4)を本誌に行い,厚生省などの公的機関による電子カルテ価格の適正化策の必要性について強調した.そしてインターネットコンピューティングの発達に伴い医療情報のWeb公開とインターフェイスの統一化の重要性を述べた.2000年になって厚生省が電子カルテ様式の標準化を事業として立ちあげていることが明らかとなった.これは100万円/1床という高価な電子カルテ価格であったものが適正化されることになりつつあり,筆者の考える電子カルテの在り方に近づいたようだ.さらにソフトウエアー会社ごとに異なっていたインターフェイスが統一され,1患者/1カルテ/1地域()/1インターフェイスとなり病診連携が促進されることが期待されるのである.

 

シングルインターフェイスによる病診連携

厚生省は1996年より地域の診療所と中核病院との病診連携推進策を進めてきた.97年には実際に紹介率の設定に基づく診療報酬点数化が実行されている.そして21世紀には厚生省は電子カルテの標準様式を普及させてシングルインターフェイスによる病診連携を視野にいれている.

これは以下に述べる90年代のデータベースシステムにも大きな変遷がみられたことに対応している(2)COBOL言語による汎用機・オフコン時代からVisual Toolsによるクライアント/サーバ型システムへ移行した.そしてインターネットの普及によりHTML (Hyper Text Markup Language)およびJava/ Java scriptによるWebコンピューティングの時代に突入し,企業はアプリケーションソフトに対するアプリケーションサーバ(APサーバ)を開発して多くの基本ソフト上でインターフェイス可能なWebと共存していかなければ生き残れない時代となった.そしてWebというシングルインターフェイスによるネットワーク環境が人類共通の遺産となり,インフラ投資が最小限におさえることができるようになった.Web型データベースの利点については表1に示す.当然,このWeb化の利点である経費削減効果は医療界にも及びつつある.

 まず90年代にMEDLINEのデータベースのWeb公開を中心にEBM (Evidence based Medicine)をリアルタイムに行うツールとしてインターネットを介して無料で利用できるようになった.99年には厚生省の高原氏が医療情報学の革新として,インターネット,電子カルテ,オーダリングシステム,レセプトコンピュータを一体化したシステム環境の構図を描いてもいる5)

 21世紀には以上のWeb型コンピュータ環境の発達に対応した様式の電子カルテがシングルインターフェイスとしての標準化されると思われる.そして診療所のコンピュータと病院のコンピュータをオンライン・ネットワーク形成することによる効率的な病診連携が実現される.すなわち医療機能評価的には,1患者/1カルテ/1地域()/1インターフェイスへ昇華されることになる.さらにWeb型システムの場合には院内のローカルサーバとの並列稼働が可能になることから病院での既存のパーソナルコンピュータがインフラの一環として活用できこの点からも効率的と考えられる(表1)

DRG/PPSの完全ソフト化

1990年代の診療報酬体系では出来高払いから,急性疾患と慢性疾患とに機能分化が行われ,出来高払いと定額制の並列制となってきた.また病診連携の成果基準に基づく点数化が進み,DRG/PPS導入対策としてクリティカルパスの達成基準に基づく点数化も進んできた.そして21世紀には現在,国立系病院で試行されているDRG/PPSが厚生省の医療制度改革として導入される.これは医療機関業務が標準化され無駄が少なくなると言われているが,実際には病院の受ける診療報酬は大幅に減少しこのままでは経営を圧迫することは避けられないと現場の医療従事者は直感する.したがって病院としてはなんらかの経費の削減策を取り入れなければならない.これにはやはりデジタル化が期待される.クリティカルパスのような時間軸上に多業種の合意のもとで変動させていくDRG/PPSでは,電子カルテ,オーダリングシステムとリンクしたソフトとしてデジタル化が望まれ,これを厚生省などの公的機関が主導で事業として立ち上げ標準化,低価格化することが望まれる.そこまで電子化が進めば病院の人件費の大幅な削減が計られDRG/PPSの進展に病院経営的に対応できるものと考えられる.

 

電子化から見た21世紀医療の展望

以上よりICカードと電子カルテ標準様式の普及による医療情報デジタル化とインターネットの社会的普及により1患者/1カルテ/1地域()/1インターフェイスによる医療機能評価基準が確立される.これを利用した病診連携が進展し,さらに情報公開による医療情報共有が患者受療行動を左右し新しいマーケットメカニズムが発生すると思われる.公的機関によるICカードなどのインフラ整備,電子カルテ様式の標準化,DRG-PPSの完全デジタル化,そして人類共通のシングルインターフェイスとしてWebコンピューティング環境の普及により,医療経費が大幅に削減され医療保険制度改革がすすむと予想される.このような展望から21世紀の病院では医療情報共有に関する医師の意識改革と情報の電子化環境作りが病院の存続を左右してくるものと展望される.

 

文     献

 1診療録等の電子媒体による保存について.厚生省健康政策局長,厚生省医薬安全局長,厚生省保険局長.平成11422日.

 2)法令に保存義務が規定されている診療録及び診療緒記録の電子媒体による保存に関するガイドライン等について.財団法人医療情報システム開発センター.平成11311日.

3)診療録等の電子媒体による保存に関する解説書.監修 厚生省健康政策局研究開発振興課医療技術情報推進室.編集 財団法人医療情報システム開発センター.平成1110月.

 4)梶ケ谷保彦: 独自の電子サマリーWeb化から考察される電子カルテの在り方と問題点.小児科, 40(12): 1637-16431999.

 5)高原亮治:EBMと診療ガイドライン.病院 58(7), 661-669, 1999.

 

 

 

 

 

 

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