綜説

小児疾患における免疫グロブリン大量療法の臨床効果と問題点 

 

梶ケ谷保彦,

 

Key words: 免疫グロブリン大量療法

 

      要     旨

 小児疾患における免疫グロブリン大量療法(IVIG大量療法)の適応,効果,安全性および問題点について,最近の知見を整理した.特発性血小板減少性紫斑病および川崎病においては,その有効性について確立されてきている.最近ではその他の疾患へのIVIG大量療法の適応の拡大と超大量療法に関する検討が進行している.一方,免疫グロブリン製剤を含め血液製剤の安全性については,最新情報をもとに医師がその欠点と利点についても充分,認識した上での使用を,より徹底することが望まれている.IVIG大量療法でも副反応として,種々の溶血性貧血,無菌性髄膜炎,肝障害などが問題となっており,IVIG大量療法の適応と用量設定には個々の症例で,その都度,慎重な対応が必要と考えられる.

 

      は じ め に

 近年,血液製剤の安全性については,医師は常に,最新情報をもとにその欠点と利点について充分,認識した上での使用を徹底することが望まれている.一方,小児科領域では特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura,以下,ITP)1)や川崎病2)を中心に治療として免疫グロブリン大量療法(high-dose intravenous immunoglobulin therapy,以下,IVIG大量療法)の普遍的有効性が認められ,投与症例が急速に増加している.上記以外でも数多くの疾患でのIVIG大量療法の有効性の有無について報告されてきている.また最近では,川崎病を中心に免疫グロブリン超大量療法が推奨3)されてきており,IVIG大量療法の文献的適応疾患の拡大とdose escalationが進んできている.しかし,治療例が増加するに従いIVIG療法による副反応として,小児の成長に伴う免疫能の発達などへの二次的な影響や無菌性髄膜炎,溶血性貧血,肝障害,予防接種への影響などの問題点が徐々に蓄積されてきている.ここでは,IVIG大量療法の小児科領域における様々な疾患に対する文献的臨床効果および安全性などの問題点について,著者の知見を含め整理した.

 

  T.静注用免疫グロブリン製剤

 1.製剤の特徴

 血漿あるいは血清にCohn-Oncley4)5)すなわち低温エタノール処理を行い免疫グロブリンを分画している.各種静注用免疫グロブリン製剤ではIgGが凝集しないように処理が独自に施されている.IgGが凝集した重合体は,補体系を活性化してアナフィラキシー症状を惹起するためである.IgG凝集処理の結果,各種製剤は完全分子型(intact型)と非完全分子型とに大別される.さらに完全分子型は化学修飾されたものと,非修飾のものとに分類される.IVIG大量療法の治療効果として,完全分子型と非完全分子型とで異なるので,性状についても認識した上での選択が必要である.

 2.微生物感染の危険性

 残念ながら現在の精製技術では,血液製剤から微生物を100%除去することは不可能であるので,われわれ医師は常に,血液製剤投与症例についてはなんらかの感染症の発症の有無を長期にわたって観察し,同時に世界各国からの感染例の報告の有無についても速く知り,速い対応が必要とされる.

 19967月の時点では,免疫グロブリン製剤投与による後天性免疫不全症候群(以下,AIDS)の発症例の報告はないが,C型肝炎ウイルスによる感染例の報告6)が1例みられる.このため米国Food and Drug administration (以下,FDA)では,Cohn-Oncleyの低温エタノール処理のみではウイルス不活化は不充分であり,これに加えてなんらかのウイルス対策ステップを追加することが必要であると勧告した7).

 免疫グロブリン製剤には由来血の違いとして,本邦の献血から得られた血液由来の製剤と,外国がら輸入した血液もその由来に含まれる製剤とがある.献血由来の製剤では,表1のごとくなんらかの抗ウイルス対策がなされている(HIV抗体,HCV抗体,HBs抗原,成人型T細胞性白血病ウイルス抗体,s-GPTのスクリーニング,ウイルス除去膜,加熱,ポリエチレングリコール処理など).これらの献血由来製剤でのC型肝炎ウイルス感染例の報告はない.また両者にIVIG大量療法の効果には差がないので,未知の微生物の混入の危険性が多民族国家の米国由来血に高いと考えている医療施設では献血製剤を選択している.将来は国際的な,より普遍性の高い安全基準を作る対策が望まれる.

 最近,狂牛病との関連で注目されている伝染性疾患のCreutzfeldt-Jakob(以下,CJD)では,その成因としてプリオン蛋白説8)が有力である.プリオン蛋白には煮沸,紫外線照射,エタノール処理は無効とされる8).本邦では頻度の低い疾患ではあるが供血者の選択には注意が必要であることと,供血者でのCJD発症者の有無についての追跡調査などが望まれるところである.また遅発性疾患であるため血液製剤によるプリオン蛋白の感染の危険性について年頭におき,投与例について長期にわたって観察していなければならない.プリオン蛋白は35nmのウイルス除去膜により除去可能との報告9)はあるが,膜による濾過の場合には膜劣化の問題があり,その維持管理態勢に明確な基準をたてそれを遵守することが望まれる.

 本邦で使用可能な免疫グロブリン製剤には複数の製薬会社のものがある.それぞれの製薬会社により,エタノール処理の回数,加熱の有無,ポリエチレングリコール処理の有無,ウイルス除去膜使用の有無,献血製剤の有無などが異なっている.従って使用する場合には,その医療施設の安全委員会や医局会などでよく調査した上で,最新の医療情報をもとに製剤選択の基準をつくり,より安全な製剤を選択することが望まれる.

   U.IVIG療法の臨床応用

 これまでにIVIG大量療法の有効性が報告された疾患について表2に示す.大きく疾患を分類すると,血液疾患,川崎病,自己免疫疾患,その他の疾患に分けられる.現在,保険適応なのは,ITPと川崎病である.有効性が確立しつつある疾患として,ギランバレー症候群や後述するpassive ITPがあげられる.その他の疾患としては,試験的な段階のものが多く,難治性疾患などにIVIG大量療法を行い,まだその有効性が模索されているものである.IVIG大量療法の副反応などの問題点も抱える現状では,その適応拡大にはこれまでの報告を踏まえた慎重な対応が必要とされている.ここではIVIG大量療法の有効性が確立されている,ITPと川崎病を中心にその効果,適応,機序,投与法,副反応などの問題点についてまとめた.今後,実際の小児科臨床の場でIVIG大量療法の適応を考える際の指針となれば幸いである.

 1.特発性血小板減少性紫斑病(ITP)

 小児のITPに対する治療としては,1981年にImbach1)によってIVIG大量療法の効果が報告されて以来,積極的に各施設で治療が試みられその効果は確立してきている.血小板減少を伴う無免疫グロブリン血症の患者に免疫グロブリンを投与した際に,血小板の増加が得られたことから試みられた治療法であった.その特徴としては,数日で速効性が期待されること.効果は持続せずに免疫グロブリンの半減期に一致して血小板が減少すること.免疫グロブリン製剤としては,Fc部分を含んだ完全分子型(intact型)において有効性が認められること.急性型のITPにおいては極めて有効性が高いこと.慢性型では急性型に比し有効性は低いが約半数の症例において効果が期待できることなどである.適応であるが,ITPでは血小板減少が著しく頭蓋内出血などの危険性が高い場合と摘脾などの手術を行うことを前提に,一時的に血小板数の増加を期待したい場合などが一般である.

 作用機序としては,網内系細胞のFcレセプターが大量の免疫グロブリンにより飽和されるため,自己の血小板に対する抗体(対応抗原は血小板糖蛋白であるGPUb/Vaと考えられている)が結合した血小板の網内系での破壊が阻止されるためと推測されている.

 小児科領域では,passive ITPという病態,すなわち母体が慢性のITPの際には,経胎盤的に抗血小板抗体が,胎児に移行して受動的にITPを呈する状態では,血小板減少が3週から4週と一過性にみられる.しかし血小板減少が著明で出血傾向の強い場合には,IVIG大量療法の適応を考える必要がある.出生前に母体にIVIG大量療法を行う報告10)があるがその児への効果は一定していない.著者の経験では11),生後,新生児の血小板減少と出血傾向の著明な症例では,ステロイド投与よりもIVIG大量療法の適応になり,かつ有効性が期待された(図1).しかしpassive ITP児にIVIG大量療法施行後も患児の血小板関連IgG(PA IgG)が正常化するまでは注意深い経過観察が必要であった.また摘脾を施行された母体で,摘脾後もPA IgGの上昇が観察された場合には,passive ITP児を分娩する可能性が高いと考えて管理すべきと思われた11).

 白血病などの血液疾患において,原疾患の治療と補助療法のために,頻回の血小板輸血が行われるが,そういった症例の一部において,しばらくしてから血小板輸血が無効となってしまうことがある.この際にも,IVIG大量療法の効果が期待され,これまでにいくつかの施設において,血小板輸血と同時にIVIG大量療法が試みられた.しかしその効果には確定した報告はなく,著者の経験でも5例の血小板輸血不応性紫斑病でIVIG大量療法を行ったがすべての症例で無効であったので,投与量と投与法の工夫が必要と感じている.

 2.その他の血液疾患

 溶血性貧血では,IVIG大量療法の報告がみられるが,有効例は散発的である.自己免疫性溶血性貧血においては,むしろIVIG大量療法により溶血が加速されることも懸念されている.しかし著者の経験では12),治療抵抗性の抗D特異性を示した自己免疫性溶血性貧血において,IVIG大量療法が有効であった症例を経験しているので,難治性の症例では,IVIG大量療法も選択肢の一つとして考えてもよいと思われる.

 再生不良性貧血では,小児,成人ともにIVIG大量療法がいくつか試みられてきている.小児では有効例の単発的な報告はあるが,重症型,中等症型の症例では無効とする報告が多い13).成人でも有効とする報告はあるが一定した効果は期待できない.したがって再生不良性貧血でも,IVIG大量療法は選択肢の一つとして試みてもよいと思われる.

 3.川崎病

 川崎病は原因不明の急性熱性発疹性疾患で現状では原因に対する治療法はない.これまでアスピリン療法が信頼されていたが,1980年代に免疫グロブリン大量療法の有効性がFurusho2)により報告され,その後の多数症例に対する対照試験により,IVIG大量療法がアスピリン療法を上回る冠動脈瘤発生の抑制効果を有することが確認された.その後,冠動脈障害の発生率を低下させる治療法としてIVIG大量療法が第一選択として一般化した.

 完全分子型と非完全分子型との比較では,ITPと同様に前者の方が冠動脈障害発生率において優れていることが報告14)されている.投与量では,現在のところ保険適応として,免疫グロブリン 200mg/kg/day, 5日間の使用が,グロベニン-Iおよびベニロンで認可されており,400mg/kg/day, 5日間の使用が,ヴェノグロブリン-Iにおいて認可されている.1993年にAmerican Heart Association では急性期に起こる炎症を一日でも早く軽快させることを重視する立場から,免疫グロブリン超大量療法 (2g/kg)を推奨した3). 本邦でも,通常の大量療法に不応な症例に対し追加療法としての超大量療法の有効性が報告15)されるようになり,最近では岩佐ら16)の川崎病167例を対象とした検討では,超大量療法の2g/ kg/day,1回投与を行い,解熱しない場合には追加投与を9病日以内に終了することにより冠動脈障害発生は少なくなると報告している.しかし投与量に関しては重症例ほど十分量の投与が必要と考えられ,重症度の判定が課題となっている.一律的な用量設定は好ましくなく,個々の症例において慎重に設定すべきと考えられる.

 作用機序としては,急性期に種々のサイトカインの上昇が認められることから,大量の免疫グロブリンが単球のFcレセプターを介して,サイトカイン産生を抑えて,炎症反応が低下するためと推測されている.

 4.ギランバレー症候群

 上記の疾患以外で,IVIG大量療法の臨床応用が最も進行し,保険適応が近いのがギランバレー症候群である.本症では末梢神経髄鞘抗体の存在が判明しつつあり,自己免疫性ニューロパチーとしてとらえられており,血漿交換やIVIG大量療法が治療法として確立しつつある.IVIG大量療法の本症における有効率は,約50%となっている17).有効例では,数日間で歩行可能となることから,髄鞘化の促進による可能性は少ないと考えられ,その機序の解明が待たれている.

 5.その他の自己免疫性神経筋疾患

 Chronic inflammatory demyelinating polyradiculo-neuropathy (以下,CIDP)は,臨床的には慢性,再発性に経過する末梢神経障害を特徴とし,chronic Guillain-Barre syndrome, recurrent polyneuro-pathyなどと呼ばれていた末梢神経疾患と同一のものと思われ,Dyck18)がこの疾患概念をCIDPという名称で整理したものである.CIDPにおいても,IVIG大量療法が試みられ,有効例の報告が蓄積されつつあり,保険適応が近いと思われる.溝口ら19)は他の治療法に反応が不良で,かつステロイド剤の長期投与がためらわれる症例に試みる価値のある治療法であると述べている.

 重症筋無力症では,従来から抗コリンエステラーゼ剤,ステロイド剤が用いられ,また,胸腺摘出術や血漿交換療法も行われるが,いずれも副作用や合併症が問題となるため,一部の症例ではIVIG大量療法が試みられ,有効例が報告20)されてきている.抗コリンレセプター抗体は治療により低下する症例もあるが,一定していない.反応例でも定期的な補充療法が多くの症例で必要となる.

 6.重症ウイルス感染症

 小児科領域では重症なサイトメガロウイルス感染症にしばしば遭遇する.乳児や免疫不全症候群ではサイトメガロウイルス感染が肺炎などに進展し,しばしば重篤となり生命を脅かす症例がある.このような症例に対して,ガンシクロビルを投与し,同時にサイトメガロウイルス抗体価の高い免疫グロブリン製剤の大量投与を併用することの有効性が報告21)されている.著者も最近,重症の乳児サイトメガロウイルス肺炎に対し,両者を併用し著効した症例を経験した(図2).この際に,注意しなければならないことは,サイトメガロウイルス抗体価を測定していない献血由来の製剤では,高抗体価の製剤が得られないので,この場合には外国人血由来の免疫グロブリン製剤を選択しなければばらないことである.外国人血由来の免疫グロブリン製剤にもウイルス除去膜などの導入が望まれ,この点からも国際的な,より普遍性の高い安全基準を作る対策が望まれる.

 同種骨髄移植の際にもサイトメガロウイルスによる間質性肺炎の合併が移植成績を左右するほど問題となるが,予防的なサイトメガロウイルス抗体価の高い免疫グロブリン製剤の大量投与が有効であるとする報告22)もある.

 7.その他の疾患

 これまでに,表2に示す種々の疾患に対してIVIG大量療法の有効例が報告されているが,症例数が少なく,いまだ一定の評価が定まっていない.これらの疾患に対しては症例数の蓄積が待たれている.

 V.IVIG大量療法の副反応

 1.大量療法時の即時型副反応

 IVIG大量療法の時に,投与速度が速いとみられやすい反応としてアナフィラキシー反応がある.これは,投与速度と症状の程度に関係があり,最初の30分はゆっくり,2550mg(0.51ml)/kg/時間の速度で点滴することが望まれる.症状としては,悪寒,振せん,しびれ感,悪心,嘔吐,頭痛,発熱,発疹が出現し,程度の強い場合には喘鳴,呼吸困難,血圧低下などのショック症状となる.この反応はIgGの凝集した重合体が補体系を活性化し,アレルギー反応を引き起こすためと考えられているが,前述のように投与速度の調節によりかなり未然に防げるものである.

 IgA欠損症では,自己のIgAに対する抗体を有していることが多く,免疫グロブリン製剤投与時には注意が必要である.製剤に含まれる微量のIgAに,この抗体が結合する際に,アナフィラキシー反応をおこすことがあるからである.

 2.溶血性貧血

 IVIG大量療法の赤血球に与える影響については,特にITPの症例では,これまでにIVIG大量療法に伴う溶血性貧血が報告23)24)されており,これは製剤中の抗A抗体(抗体価は500倍以上)によるものと考えられていた.それ以後は抗A抗体価の低い製剤が用いられるようになった.しかしその後も,IVIG大量療法後にITPで溶血を呈する症例報告25)26)27)があり,またMCLSでもIVIG大量療法施行後,溶血あるいは1週目に赤血球およびhemoglobinの有意の低下のみられることが報告27)28)29)され,抗A,B抗体以外による溶血機序の存在が示唆されていた.

 著者は30),IVIG大量療法後に血色素尿を伴う溶血性貧血をきたしたITPの症例を経験し,不規則性抗体の検索の結果,冷式抗赤血球抗体の存在を確認した(図3).使用した免疫グロブリン製剤の各lot中の不規則性抗体の検索では冷式抗赤血球抗体はすべてのlotで陰性であった.従って出現した冷式抗赤血球抗体はIVIG大量療法に使用した製剤由来の抗体ではなく,IVIG大量療法後に二次的な現象として出現する抗体と考えられた.またこの冷式抗赤血球抗体の出現する現象はITPの1例にかぎったものではなく,IVIGを施行した12例中,10(ITP 例,MCLS 例)の患者に出現していることから,IVIG療法に伴う,比較的,普遍的な現象であると考えられた(表3)31).この抗体による溶血反応は,保温につとめることにより抑制され,またその出現は一過性のものであると考えられた.IVIG療法を行う際には冷式抗赤血球抗体による溶血に関する注意が必要と考えている.

 3.無菌性髄膜炎

 IVIG大量療法に伴う無菌性髄膜炎は,Kato32)がITPに発症した症例を最初に報告した.以後,同様の報告が多数みられている.多くの症例でIVIG大量療法開始後,数日目に頭痛,嘔吐,発熱を呈しており,髄液所見では多核球優位の細胞増多が特徴である.重篤例は少なく,ITPのみならずCIDPの症例でも報告33)34)がある.

 4.肝障害

 微生物感染の危険性の項でも述べたように,免疫グロブリン製剤投与によるC型肝炎ウイルスによる感染例の報告5)1994年に1例みられ,その後,肝炎ウイルス不活化には,米国FDAはCohnのエタノール処理のみではなく,これに加えてなんらかの追加処理が必要であることを勧告6)した.以後,その勧告を受け,製薬会社は,それぞれ独自の追加処理を加えるようになり,それ以後は964月までのところ報告はない.しかし最近,著者らは,IVIG超大量療法後に,一過性の肝障害をきたした症例を経験しており(図4)35),ウイルス検索の結果では,既知の肝炎ウイルスの関与はなく,超大量療法に伴うなんらかの免疫異常によるものと推測されたが,Prion proteinなど未知の微生物の関与については否定しきれなかった.

 5.その他の問題点

 IVIG大量療法後に血清クレアチニンが上昇し,急性腎不全を呈する症例が高齢で腎疾患の既往を持つ症例に多くみられる36).また高齢者にIVIG大量療法施行後に心筋梗塞,脳梗塞などの塞栓症をきたした報告37)もみられる.原因としてIVIG大量療法に伴う血清IgG値の上昇により血液の粘張度が亢進することが推測されている.また最近では免疫グロブリン製剤そのものの影響が否定できない症例報告38)もみられ,この点でもより精製度の高い製剤,特にトロンビンなどの含まれない製剤の開発が望まれている.

 6.IVIG大量療法と予防接種

 大量療法により投与されたウイルス中和抗体が予防接種に影響を与えるため,治療後,予防接種の間隔については各予防接種について配慮が必要である.ここでは米国衛生省による予防接種に関する勧告39)を紹介する.麻疹予防接種であるが,川崎病で2g/kgの大量療法を受けた症例では,接種時期は11か月以後とし,ITPで1g/kgの大量療法を受けた症例では,10か月以後としている.またこれは本人に麻疹感染の危険性の低いことを条件としている.しかし麻疹流行時にはIVIG大量療法後,4か月過ぎからの接種を薦めている.風疹,ムンプス,水痘の予防接種時期に関しては,一定の見解がなく麻疹に準じて予防接種を施行するのが妥当と思われる.不活化ワクチンに関しては,さきほどの勧告では影響はないとされている.

 

    W. 結    語

 以上,血液製剤としての免疫グロブリン製剤の安全性およびIVIG大量療法の臨床効果,副反応,問題点について述べた.免疫グロブリン製剤に限らず,血液製剤の臨床応用を計る際には,個々の症例の病状をよく把握して,その治療する上での欠点と利点についてよく考慮したうえでの慎重な選択が必要とされる.横浜栄共済病院では,大量療法を行う際には,主治医の判断のみではなく,各疾患領域の指導医との協議のうえ適応を決定するようにしている.またIVIG大量療法施行例の副反応についても,注意深く観察し,逐次,論文報告するようにしている.

 今後,期待されることとしては,より精製度の高い,より微生物混入の危険性の少ない血液製剤の開発がなされること.副反応の機序が解明されること.IVIG大量療法により難治性の疾患が1例でも多く軽快,治癒することである.

 

      文     献

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