総説
白血病細胞の無血清培養
梶ケ谷保彦,他
要旨 近年,血清成分を全く含まない培養条件下にて増殖可能なヒトおよびマウスの骨髄性白血病細胞株がいくつか樹立されている。ここではこれら無血清・無蛋白培養白血病細胞株に関する最近の知見を整理した。これまでの血清添加培養の問題点は,同定されていない未知の血清成分が含まれていることで,目的とする単一に純化された因子の作用と,この未知の血清成分による相互作用などの影響が除外できないことにある。従ってこの単純化された無血清・無蛋白培養系を用いた検討により血清成分の影響を除外して,純化された因子のもつ多様とされる生物活性の解析が厳密に行われ,白血病細胞の生物学的特性も,より明快に理解できるようになった.
Key words: Leukemia, Serum-free culture, Protein-free
culture
は じ め に
組織培養法は,生体の一部である組織や細胞を取り出して培養器内で生育させる技術である。これは生命の最小単位である細胞を,個体から切り離した環境で,すなわち複雑な生体制御機構の影響を受けずに,生命現象を単純化した系の中で解析できる重要な手技である。この研究手段の急速な発展によって,従来の大腸菌などの微生物を用いた研究ではできない,細胞の分化,癌化,老化などの現象の解析ができるようになりつつある。
通常,これまでの動物細胞の培養には,合成培地の他に牛胎児血清などの血清の添加を必要とする1)。血清の役割については,浸透圧,pHの安定化,栄養成分の補給などの他に細胞成長因子の役割が明らかにされている。一方,血清使用には下記のような難点もある。*血清には蛋白質,脂肪などが多種多量に存在し,いまだ同定されていない血清成分も含まれている。*血清成分についてのロットごとの変動が大きく,詳細な再現性のある実験が困難である。*血清にはマイコプラズマやウイルスなどの潜在的汚染の危険性が存在する。*血清の価格は高価である。これらの難点のうち特に,問題となるのは同定されていないあるいは未知の血清成分が含まれていることである。
近年,培養技術の進歩と培地の改良により,血清を含まない無血清培地による培養が成功している2)。この単純化された無血清培養系を用いた検討により,血清成分の影響を除外して,純化された因子の活性の解析が正確に行われ,より明快に理解できるようになった。 本稿では,無血清培地で増殖する白血病細胞株,特に無血清・無蛋白・無脂質・無成長因子の条件下で増殖可能な白血病細胞株の性状を中心に紹介し,これらの細胞株を用いた研究成果について最近の知見を紹介する。
なお,広義の無血清培養については,用いる培地により,次のように分類した。
*基礎合成培地:アミノ酸,ビタミン,糖,塩類などの既知の精製低分子成分よりなり,血清・蛋白・脂質・成長因子を全く含まないもの。
*基礎合成培地に成長因子を加えたもの:*の培地に加え,ペプチド性の成長因子,またはホルモンなどの既知の精製蛋白質成分を含むもの。*と*を完全合成培地という。
*完全合成培地に天然栄養物を加えたもの:完全合成培地に加え,精製純化されていない物質,例えば牛血清アルブミンを添加したもの。
通常,血球系培養では*による培養を無血清・無蛋白・無脂質培養といい,*と*による培養を狭義の無血清培養という。
*.白血病株細胞の培養法(Table
1)
1.培地
細胞培養を行ううえで,基礎培地の選択が重要である.血球系の細胞の培養に対して開発されたRPMI1640が血清含有培養系においてよく使用されている3)。
無血清培養では,一般に高栄養の基礎培地が使用されており,Ham's F12培地とDulbecco's
Modified Eagle(DME)培地の1対1混合培地などが適している。この基礎培地はほとんどの細胞に対して使用できる2)。 無血清・無蛋白・無脂質培養では,これまでに白血病細胞株では,Ham's
F12,Ham's F10,RPMI1640培地など様々で,これら基礎培地単独による樹立成功例が報告4-9)されており,それぞれの細胞株により栄養要求性が異なるので,適した基礎培地を選択し使用する必要がある。
基礎培地の調整には,使用直前に調整した3回蒸留水,またはMilli-Q水精製システム(Millipore)を通した水を使用する。貯蔵した精製水は好ましくなく,貯蔵中のわずかな微生物の増殖でもpyrogenによる汚染につながり,とくに無血清培養では問題となる。調整後の溶液状態の培地の保存は3週間が限度で,それ以上の保存は,栄養素の分解により再現性のある実験結果が得られないし,無血清培養株の継代維持も不能となってしまう。
2.血清含有培養法
多くの血清含有培養系では,牛胎児血清(以下FCS)を5〜20%添加することにより細胞株の継代維持が可能である。前述のごとくFCSには,成長因子などの各成分の含有量が異なることによるロット差が認められ,各細胞株に適した血清のロットの選択が必要となる。また血清を用いた実験系では,再現性の問題,血清中の未確認因子との共同作用の影響などにより,実験結果の解釈に限界がみられることがある。
3.無血清培養法
血清含有培地で培養されている細胞を,基礎培地に適応させるために,培地中の血清濃度を段階的に低下させるにつれて,多くの株化細胞は次第に死滅して,継代不可能となる。一方,成長因子やホルモンなどを添加した基礎培地に適応させると,継代培養可能となり,この方法によって種々の無血清培養株が樹立されている。なお,血清成分のすべてが協調しあって培養細胞に役立っているわけではなく,血清の代替物はわずかの種類の成長因子やホルモンで十分であることもわかっている。4.無血清・無蛋白・無脂質培養法
ある種の白血病細胞や動物細胞の一部は,基礎合成培地のみで増殖可能で無血清・無蛋白・無脂質培養株として樹立されている。この事実は必ずしも外来の成長因子やホルモンが細胞培養に必須ではないことを示唆している。これらの細胞株を利用すれば,目的とする種々な因子の単独作用を検討することが可能である。また極めて単純化された条件下にて増殖可能であることから,腫瘍細胞の自律性増殖機構の解析にも有用性が期待されている。次にこれまでに報告されている無血清・無蛋白・無脂質白血病細胞株について述べる。
*.WEHI-3B細胞の無蛋白培養
著者らはマウスの白血病細胞株において最初の無血清・無蛋白・無脂質培養株であるマウス骨髄単球性白血病細胞株WEHI-3B-Y1を樹立した4*5)。5%FCSを添加した
Ham's F-12にて継代維持されてきたWEHI-3B細胞はその血清濃度を徐々に,段階的に低下させて行く方法で,約3ケ月後には,血清および成長因子などの蛋白を全く含まない基礎培地のみの条件下にて増殖可能となり,以後,現在までに4年以上,長期間,継代維持されている4*5)。この細胞株と血清株の性状についてTable
2に示した。
1969年に鉱物油誘発骨髄単球性白血病のBALB/cマウスから,in
vitroで増殖可能な血清株WEHI-3Bが樹立され10*11),その後,Metcalfらにより,血清含有培養系でマウスG-CSF添加により正常機能を持った成熟細胞への分化誘導を受けることが報告され12*13*14),WEHI-3B(D+)と命名された。最近の遺伝子工学の進歩により,ヒトG-CSFのcDNAが同定され,大腸菌由来の遺伝子組換え型ヒトG-CSFが得られるようになった。Souzaら15)はヒトG-CSFによってWEHI-3B細胞の分化誘導が血清含有培養系で認められると報告している。
G-CSF以外に,これまでに判明しているWEHI-3B細胞に対する分化誘導因子としては,actinomycin
D16)が報告され,さらにanthracycline系抗白血病剤であるaclacino-mycin A17),adriamycin18),4′-Ο-tetra-hydropyranyl
adriamycin19),4′-epi-adria-mycin20)やanthraquinone系のmitoxantrone 21*22)にも殺細胞作用以外に分化誘導活性の認められることが報告されている。最近,著者らはmitoxantroneによる分化誘導に耐性を示す亜株WEHI-3B-MIT-Rの単離およびその樹立に成功し,その性状について報告している23*24)。
一方,外来の分化誘導因子を添加しなくても,培養皿内のWEHI-3B細胞由来のコロニー数が増加するに従い(細胞濃度が増加するに従い)分化型のコロニー数の割合が増加する現象,すなわち白血病細胞自身による分化自己誘導も報告25-27)されている。従って,このWEHI-3B細胞の分化を検討する際には,低い細胞濃度による検討が必要である。B*hmerら28)および著者ら21)はWEHI-3B細胞の種々の細胞濃度における分化誘導の検討を行ったところ,既知の分化誘導因子
(actinomycin-Dやmitoxantrone)による分化誘導は種々な細胞濃度において認められるが,マウスおよびヒトG-CSFによる分化誘導は,1×105/ml未満の細胞濃度では観察されないことをみいだした。この実験結果より,actinomycin-Dやmitoxantroneによる分化誘導は細胞に対する直接作用であるのに対し,G-CSFは直接的には分化を誘導せず,むしろ前述の分化自己誘導と関連した現象であることが示唆された。しかしながら,これまでの血清を含む培養条件下では,血清中の未知の成分による自発的分化が認められ,純化された因子の分化誘導を厳密に検討するには,血清を含まない条件下での解析が必要である。著者ら29)も,培養細胞濃度の低い条件かつ無血清培養条件下による検討からG-CSFによるWEHI-3B細胞の分化誘導は,その直接作用ではなく,G-CSFによるコロニー増加作用に伴う,二次的な分化自己誘導の結果であることを認めている。さらに,この無血清培養系により,これら作用機構の異なる2種の分化誘導因子に,分化誘導相乗効果のみられることも明らかにしている30)。このように無血清培養を用いることにより,分化誘導因子による分化誘導機構における分化自己誘導の役割が明らかにされ,さらに分化誘導因子との相互作用についても明確にされつつある。
さらに著者ら26*27)はWEHI-3B細胞の無血清培養上清の分析結果より,分子量約15,000の分化自己誘導因子が産生されていることを示し,この分化自己誘導因子はIL-3,G-CSF,
tumor necrosis factor, leukemia inhibitory factorなどとは異なる液性因子であることを報告している。
一方,WEHI−3B血清株はinterleukin-3(以下,IL-3)を構成的に産生することが知られている31-33)。IL-3はヌードマウスの脾臓のリンパ節に20α-
hydroxysteroid dehydrogenase活性を誘導し34),さらに多能性造血幹細胞刺激因子(以下,multi-CSF)活性を有する糖蛋白で,IhleによりこのWEHI-3B血清株細胞培養上清から精製されている35)。その後,WEHI-3B細胞によるIL-3産生はendogenous
retrovirus-like elementがIL-3 geneの5′端近辺に挿入されたことによると報告され36),その結果,IL-3が大量に産生され,これが自分自身に作用してWEHI-3B細胞の複製がおこることが推測されている。しかしながら,血清を含む培養条件下でのMetcalfによる検討では,IL-3のWEHI-3Bに対する増殖刺激因子活性は認められなかった14)。
無蛋白培養株であるWEHI-3B-Y1は,無蛋白培養の条件下にて増殖可能であることより,WEHI-3B-Y1細胞が自己の増殖を刺激する液性因子を産生していることが推定されている5)。著者ら37)は,WEHI-3B-Y1培養上清をIL-3依存性FDCP-2細胞に添加培養することにより,3H-thymidine取り込みの高値を示し,さらにこの培養上清中にmulti-CSF活性を認めたことよりWEHI-3B-Y1細胞は無血清・無蛋白培養の条件下においてIL-3を産生し,IL-3産生細胞株であることを報告した。また無血清の条件下において自己培養上清または遺伝子組換え型マウスIL-3をWEHI-3B-Y1細胞に添加することにより,その細胞倍加時間の短縮およびコロニー数の増加が認められた。以上の結果よりIL-3がWEHI-3B-Y1細胞の増殖を自己刺激していることが判明した。
TodaroおよびSpornは38*39),腫瘍細胞が自律性増殖する機序のモデルとして,細胞が自らの増殖を促進する物質を産生・分泌し,それがその細胞自身に働いて増殖していく系を想定し,autocrineと呼び,endocrineおよびparacrineとは異なる概念として提唱した。
無血清培養系によるWEHI-3B細胞を用いたこれらの実験結果より,IL−3による増殖自己刺激という系とIL−3とは異なる因子である分化自己誘導因子による分化自己誘導という系の2つのautocrineの存在する可能性が示唆された40*41*26*27*37)。
このように無血清・無蛋白・無脂質培養株を用いた研究から,今後,腫瘍細胞の自律性増殖,自然消退などを明確に解析する展望が開かれるものと思われる。
*.HL-60細胞の無蛋白培養
ヒト骨髄性白血病細胞株HL-60は,当初,急性前骨髄性白血病患者由来細胞株と報告
42)されたが,1988年にDaltonらは15;17転座がみられないことに加え,光顕所見,電顕所見を再検討した結果,FAB分類M3由来ではなく,M2由来であると報告している43)。一方,この細胞株はdimethyl
sulfoxideにより成熟顆粒球様細胞に44),12-ο-tetradecanoyl-phorbol-13-acetateにより単球・マクロファージ様細胞に45),alkaline
mediaにより好酸球様細胞に46),sodium butyrateにより好塩基球様細胞に47)分化を誘導されることが示され,多能性の性格を有することが報告されている。この細胞はヒト骨髄性白血病細胞の分化・増殖機構の解析に有用で,これまでに多数の報告がある48)。
著者ら6)は前述の方法でFCSの濃度を段階的に低下させていくことにより,10ケ月後には無蛋白および無脂質F-12培養液にて継代維持可能なHL-60-Y3を樹立した。以後,3年以上継代維持している。この細胞株と血清株の性状について,Table
3に示す。HL-60-Y3の細胞化学検査所見では,血清株42*48)と同様にperoxidase陽性, naphthol ASD chloroacetate陽性,acid
phosphatase陽性であったが,それ以外にalpha naphthyl butyrate esterase陽性細胞,Biebrich scarlet陽性細胞,toluidine
blue陽性細胞も一部認めた6)。HL-60-Y3細胞が多様な細胞化学所見を示したことから,完全合成培地にて継代されているうちにこの細胞の持っている本来の多能的な性格が表出されたものと考えられた。
なお,無血清培養系を用いた検討より,培養皿内のコロニー数が増加するにつれて拡散型コロニーの割合が増加することが示され,しかもコロニー構成細胞の形態学的検討より,拡散型コロニーでは主として成熟単球様細胞への分化が認められた。さらに,二次性コロニー形成能の検討で拡散型コロニーの二次性コロニー形成能の著明な低下が認められたことから,WEHI-3B-Y1細胞と同様にHL-60-Y3細胞には分化自己誘導の存在が示唆された49)。またHL-60-Y3細胞の無血清条件下で限界希釈を用いた単細胞培養によるコロニー間の影響を除外した培養系で,自己培養上清を添加することによって分化型のコロニー形成が誘導されることが示され,HL-60-Y3細胞による分化自己誘導因子の産生も示唆されている49)。
HL-60の血清株では,Perkinsら50)によりHL-60細胞により自己の分化ではなく増殖を刺激する分子量25,000の増殖自己刺激因子の産生が報告されている。無血清・無蛋白・無脂質培養株の存在は,その増殖機序として,やはり増殖自己刺激因子によるautocrine増殖が関与していることが想定される6)。これらの検討結果よりHL-60細胞においてもWEHI-3B細胞と同様に,分化自己誘導因子による系と,増殖自己刺激因子による系の2つの自己に対する分化増殖機構の存在が示唆されている49)。
*.K-562細胞の無蛋白培養
ヒト白血病細胞株において最初に無血清・無蛋白・無脂質培養株の樹立が報告8)されたのは,K-562-T1細胞株である。慢性骨髄性白血病急性転化の胸水細胞から樹立された血清株は,Ph1染色体を持ち,hemin,酪酸により赤血球系分化が誘導される51)。また,これまでに顆粒球・単球系,巨核球系,Bリンパ球系の各系統へもそれぞれの分化誘導因子により分化することが報告され,多能性幹細胞的性格を有することが知られている52)。
Okabeら8)は5%FCS添加Ham's F-10培養液にて継代維持されていたK-562血清株の血清濃度を段階的に低下させて,約3ケ月後に,無血清・無蛋白・無脂質の条件下にて増殖可能な細胞(K-562-T1)を得ることに成功し,以後,5年以上の同条件にて長期継代培養することにより樹立した。この細胞株は細胞倍加時間が約30時間で,最高細胞密度が1×106/ml,またheminにより無血清・無蛋白・無脂質の条件下でヘモグロビン合成が誘導され,かかる条件下で分化誘導可能であることが報告された8)。またK-562-T1細胞培養上清中より,自己増殖刺激因子(leukemia-derived
growth factor,以下,LGF)が精製純化され53*54),その分子構造の一部が明らかにされている(ユビキチンのN端アミノ酸配列と同一)55)。これらの成績からK-562-T1細胞の自律性増殖の説明として,LGFはやはりautocrine
growth factorと考えられる。
*.巨核芽球性白血病細胞の無蛋白培養
放射線照射によりC3Hマウスに発症し,移植継代されてきた巨核芽球性白血病細胞MK805756*57)を,著者らは5%FCSを含む
Ham's F-12培養液で継代維持が可能なL8057株58)として樹立した。培養開始6週目より,段階的にFCSの濃度を低下させたところ,L8057株は第18週目には無血清・無蛋白・無脂質の条件下で良好な増殖を示すようになり,L8057-Y5株9)として現在までに2年以上,継代維持されている。
L8057-Y5株細胞は血小板糖蛋白*b/*aが陽性で,数%の細胞がacetylcholin-esterase陽性で巨核球系細胞のマーカーが存在した。L8057-Y5株細胞は無血清半固型培養地にてコロニー形成能を持つが,自己培養上清は,このコロニー形成を刺激することから,autocrine
growth factor(s)の存在が想定されている。さらにL8057-Y5株細胞にはinterleukin-6, leukemia inhibitory factorおよびinterferon-γに対するmRNAが発現していることが判明9)しており,巨核芽球性白血病細胞の自律性増殖に,これらサイトカインが関与している可能性が示唆された。
*.無蛋白培養の応用
以上,白血病細胞の無血清培養系を用いて,純化された因子の単独作用についての最近の知見を述べたが,その他の利点および応用範囲の可能性についてつけ加える。
無血清・無蛋白・無脂質培養条件下において増殖する細胞株の培養上清は(特に,この条件下において細胞成長因子などの蛋白質性因子を産生する場合),高価な血清の代替品として用いることが考えられる。なお蛋白のみでなく,脂質などの安価な供給源としても有用である。さらに異種蛋白の混入が非常に少ないことから,未知の細胞成長因子などの産生物を分離し,精製純化するうえで重要な材料となる。
分子生物学の進歩により種々の癌遺伝子がクローニングされ,造血器腫瘍においてもその関与が判明している。なお,細胞の分化増殖機構において,癌遺伝子の産物やその機能の解明は今後の課題とされている。特定の癌遺伝子を無血清・無蛋白・無脂質培養株細胞に導入することによって,大腸菌,酵母では合成が不可能な糖蛋白質やリポ蛋白質などの複合蛋白質,あるいはペプチドを産生させこれらの産物について分子生物的に検討することも可能となる。
白血病の治療には自律性増殖する細胞の分化増殖機構の解明に基づいた治療法の開発が必要とされる。しかしながら,白血病細胞の分化増殖機構は複雑で,いまだなお解明されていない問題点が多い。従って,今後,無血清培養などの,より純化された実験系を用いた,より厳密な研究による発展が期待される。
〈謝辞〉
本研究の一部は文部省科学研究費 No.01570541およびがんの子供を守る会治療研究助成金の援助によった。
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