綜説

独自の電子サマリーWeb化から考察される電子カルテの在り方と問題点

梶ヶ谷保彦

Problems of digital clinical records considered from original summary network

 

      要     旨

 最近のデジタル化の進歩と医療の現場への応用発展は極めて目覚ましい.特に,1999年はあらゆるコンピュータ技術がWeb化の方向へ進化し,インターネットコンピューティングへ統合され,システム管理者はアプリケーション登録などの管理をサーバ側へ集中化し,クライアント側のユーザーはWeb専用ブラウザの利用のみでアプリケーション運用が急速に可能となりつつあることから,真の意味でインターネット元年と考えられる.そこで994月に厚生省が認めた電子カルテシステムもその運用指針をみると病院管理者が,これまでのように業者まかせであった院内コンピュータシステムを患者情報管理の観点から自ら責任を持った運用を行っていかなければならないことが示されている.そこで病院独自の電子サマリーのWeb化から考察される電子カルテの在り方と問題点についてまとめた.

      は じ め に

 診療情報の電子化は患者の利便性の向上,業務の効率化,医療の質の向上に資するものとして,法令に保存義務が定められている診療録等について,厚生省は一定の基準を満たす場合には電子媒体による保存を認め,厚生省健康政策局長,厚生省医薬安全局長,厚生省保険局長連名の通知を各都道府県知事宛に平成11422日発出した1).電子媒体による保存を認める文書として,医師法・歯科医師法に規定されている診療録,医療法に規定されている病院の管理及び運営に関する緒記録,薬剤師法に規定されている調剤録など10項目にわたっている.基準として電子媒体に保存する場合の3条件としては以下が示されている.情報の真正性が確保されていること (改ざん防止).情報の見読性が確保されていること (必要に応じて書面に表示).情報の保存性が確保されていること (復元可能)である.留意事項としては管理者は運用管理規定を定め実施することとし,運用管理規定に定める事項としては運用管理の組織・体制・設備に関する事項および患者のプライバシー保護に関する事項などが示されている.電子媒体による保存に関するガイドラインでは2),今回の通知は規制緩和の一環で,電子媒体に保存したい施設が自己責任において実施することを妨げないことを確認するためのものであり,電子媒体に保存することを強制するものではないとしている.自己責任については当該施設が運用する電子保存システムの@説明責任,つまり電子保存の基準を満たしていることを第三者に説明する責任,A管理責任,つまり運用面の管理を施設が行う責任,B結果責任,つまり発生した問題点や損失に対する責任を果たすことを意味するとしている.

 以上より厚生省による指導と病院の責任の構図が示されておりシステムソフトウェア業者まかせでは当然,問題があり情報管理の立場から病院がコンピュータ技術に関して自立しなければならない時期にきていると考えられる.そこで病院が自主的に実行しやすい電子サマリーのWebサーバ化とネットワーク構築を契機に電子カルテの在り方を考察した.

 退院患者のサマリーは病院によって入院要約,退院抄録などと呼ばれており,多くの総合病院では病院の自主的な管理のもとで主治医に義務化されている.法的なカルテの必須要件とはなっていないが諸機関による病院監査などではサマリーが基本となって診療内容の適否について議論され,また医師の認定医,専門医や指導医などの取得申請時にはサマリー提出が必要とされている学会が多いので現在の入院診療内容評価では重要な位置を占めている.従って,今回の電子カルテ化は病院の責任において行うよう厚生省の指導があることから,まず電子カルテ化の前段階として法的強制のない電子サマリーのWeb化によるネットワークを病院医師主体に構築することを計画し,その延長線上として電子カルテの在り方や問題点について考察した.その際には電子カルテ化を高自由度,低経費,業務効率の観点からシミュレーションし電子化の問題点を検証し,厚生省のガイドラインに示されているように患者情報管理部門としてのシステム委員会や電算科の重要性も考察した.

     T.背    景

 基本ソフト(以下,OS)Webサーバ,Web専用ブラウザなどが人類共有の遺産としてフリーウエア化している現在,低コストでネットワークを構築できる環境になっている.Webの言語としてHyper Text Markup Language (HTML)が最も普遍的なものとして確立し,各種アプリケーションはWeb言語と共存する方向へバージョンアップしてきている.OSWebと一体化する方向で進化し,企業ソフトはWebと共存できなければ生き残れない時代となっている.したがって病院コンピュータシステム管理者はWebサーバおよびWeb公開データベース構築に関する実行環境を独自に整えつつ将来に備えなければならない時期にきていると考えられる.

 この無料化,Web化の動きに対して企業はビックソフト化して利権を確保してきているので,電子カルテ市場もユーザーにとって便利だが自由度の低いビックソフト化を行い企業主導の高コスト化が進んでいる.職員にとって自由度が高く,効率的(時間的,人件費的)な部分を独自の構想をもとに選択していく必要性が出てきている.

 また電子カルテ構想の基本となる病院内ネットワークとデータベース構築に必要な技術と知識を充実させることにより,さらに患者情報に関する病院の権利についても立場を明確にしていくことが情報管理保全のうえで重要になってきている.

 Webサーバによる情報共有はOSの壁を越えて院内の各部所のパソコンにて実行可能なことから各部所のハード,ソフトの管理部門として,また電子カルテを視野にいれた場合には改ざん防止などの3条件,3責任についての管理部門として,院内に電算科を基本としたシステム委員会の必要性が高まっている.

     U.方    法

 データベースソフトとしてはリレーショナル機能を有し,さらにCommon Gateway InterfaceCGI)という,同じコンピュータ内でWebサーバとデータベースソフトとの橋渡しを行うアプリケーションを備えているものを選択する(具体的なソフト名などは,著者までお問い合わせください)CGIを備えているものであればWeb上にデータ公開が可能である.データベースソフトは一台のサーバパソコン使用として登録する.Web上に公開されれば理論的にはいかなるOSでもネットワークによりデータ共有が可能である.Webを介して病院職員の入力したデータベースに関する操作(表示,追加,編集,削除,検索,ソートなど)はユーザー登録が不要(無料)となる.制限機能によりクライアント側からの改ざん防止は可能である.

 電子サマリーの院内統一のひな形ファイルA(図1)を作成する.インターネット検索による国際疾病分類(International Classification of DiseasesICD)サイトからICD分類データベースをダウンロードし,コンマ区切りテキスト(Comma-Separeted Values, CSV)形式で抽出後,取り込み操作によりICD分類ファイルB(図2)を作る.当該病院近隣の紹介医データベースファイルCを作る.ABCをリレーションさせルックアップ可能にする(図3).ICDを入力すれば病名が出力され,病名入力すればICDが出力される.紹介医名を入力すれば紹介患者報告書と封筒印字のための住所が自動的に出力される.したがって入院要約の完結した段階ですでに主治医の判断したICD番号と紹介患者報告書も完結している.定期的に各科部長が部下のファイルAのICDチェック,報告書チェックを行う.

 患者ID台帳データベースD(図4)は医事課レセプトコンピュータよりCSV形式で書き出しサーバへ定期的に取り込む.これも同様にリレーションさせルックアップ可能にする(図3).電子サマリー側でIDを入力すれば,患者名,生年月日,性別,年齢,初診日,入院日,退院日,レセプト病名が出力される.

 病歴室のサーバコンピュータをWebサーバとし院内病歴ホームページを開設する.Webサーバの特徴はフリーウエア(無料)として数種類が供給されており,Central Processing Unit(CPU)に負担が少なく安定している.現在,普及しているOSの壁はなく,設定が簡単で95年以後のパソコンでWeb用ブラウザソフトとEthernetカードが標準装備されている機種であればOSや機種に関係なくすぐに実行可能である.何台のパソコンを接続しても有料のローカル・エリア・ネットワーク(いわゆるLAN)とは異なりクライアント側の接続料金は無料である.インターネットとの統合など今後の可能性は無限大である.

 病歴室のサーバコンピュータをハブを介してEthernetにて院内の複数のコンピュータと接続する.希望医師にはハブを介して個人のパソコンへ接続して病歴情報を共有していく(図5).

 どのような電子カルテ環境が,最も効率的,経済的で自由度が高いものなのか,また電子カルテの問題点を考察するために,院内独自の電子カルテ計画をシミュレートしてみる.そのための素案と考案を以下に提示する.

 患者情報管理としては情報共有促進および情報改ざん防止を目的に電算科を中心としたシステム委員会が自主的な管理を行う.自主的とは各部所のハード,ソフトを自由度の高いものとして管理できることをいう.

 実地診断加療の観点からつけられるレセプト病名とその結果として導き出される病歴病名にはそれぞれ独立した設定が必要であることから,レセプトデータベースと病歴データベースを並列するマルチ・サーバシステムの形でシミュレートする.レセプト病名と病歴病名の独立したフィールドを設定すれば一つのデータベースとなるが,高価格で自由度の低い企業側提供のシステムとなる.低価格で自由度の高いシステムを構築するにはレセプトデータベースと病歴データベースにリレーションをかけWeb上でルックアップできるようにすることが必要で,Webというシングルインターフェイスの環境下でマルチサーバを管理するシステムを企業と病院とで共同で構築していくことが理想的である(図6).しかし現実的には企業との価格交渉の段階を経なければならないのでここでは,まず既存のオーダリング・レセプトコンピュータシステムを継続することを前提にシミュレートする.

 まず外来・入院カルテ紙面を電子化する形で構想する.外来,病棟へ安価なパソコン(電子カルテ側はOSやメーカーは問われないので自由価格競争で任意に選べる)を配置して接続する.病歴室患者台帳データベースファイルのレイアウト(医師記録,看護記録など)を増やす.病歴室パソコンには既受診者のID情報をレセコンから取り込んでおく.外来新患は各科外来か医事課の職員がIDカード情報を病院側患者台帳データベースファイルへ入力する.IDカードをバーコード化あるいはID情報をオンライン化を業者と共同開発しておくことが望まれる.いずれは各科外来受け付け職員は本来の医事課としての業務へ吸収していく.

 以上のサーバ化においては,改ざん防止やセキュリティ管理などの厚生省の提示する3条件,3責任について電算課や院内システム委員会を中心に慎重に再検証して実行する.

 1台の病院パソコンをインターネット接続してWorld Wide Web上に制限付きのデータベースを公開して厳密なアクセス権を設定すれば,学会出張先,休日自宅,紹介医などが患者病歴情報を閲覧できる.入院カルテが電子化されると医師は回診時に,携帯パソコンにPHS接続して病室を回ることになる.その際にはさらに充分なハッカー対策が必要となる.

 取り違え事故など防ぐために同意書を必要とする処置時には認証となるカーデックス書類を作成しておき患者とともに帯出し,同定手段として用いなければならないので,証明書や認証のための書類の電子化は慎重にしなければならない.ひな形変更入力など工夫すれば医師・看護婦業務効率は向上すると思われる.

      V.考    案

 現在の総合病院のデータベース管理の問題点はOSもデータベースソフトも,そしてそれを扱うコンピュータも企業選定により提供され,各部門担当者の理解を越えた設定となっていることである.レイアウトライターの提供もなくフィールド変更すら病院担当者には実行できない状況にある.各部門の病院担当者はキーボードを触って決められたコマンド入力するだけの骨抜き状態になっている.また自由度に関する病院担当者からの要求に対しては,企業から「動作保証できない」「セキュリティに問題がある」と切り返されるため病院担当者は消極的になってしまう.これを回避するため,契約の段階で電算科やシステム委員会を中心に病院の考える動作保証やセキュリティの条件をワーキングにより作って提示していく必要がある.患者情報は病院職員が入力した病院の財産であるにも拘わらずその情報公開に対して,企業は高額な報酬を要求してきている.これに対して病院は,病院情報所有権を主張し,企業には無料で公開する技術提供の義務があることを契約の段階で盛り込んでいかなければならないと考えられる.このことは以下に述べる患者情報管理の観点からも必要である.

 患者情報院内公開と患者情報改ざん防止という電子カルテの在り方と問題点を考える際には情報に関するソフトウエア企業と病院の権利と義務を明確にすみわけしていく作業が必要となる。

 まず病院職員が入力した情報をWeb上へ公開して共有できる環境を得ることは病院情報管理上,必須の権利であって,これからのソフトウエア会社にとっては無償で提供することを義務とするよう要求しなければならない.次に得られた患者情報を管理するうえで,ネットワーク環境とハードウエアーの選択権は今後,病院に帰属するものとならなければならないとしていく.以上のように患者情報の改ざん防止などの厚生省の提示する3条件,3責任について管理することは当然,システム委員会や電算科を中心とした病院の義務となり監視体制を確立しておかなければならない.サーバが病院内にあるかぎりは改ざん防止は理論的には不可能であることからといってソフト提供企業に金銭契約の一環として改ざん防止策をもりこんでも意味がなくなるため,以上のように,患者情報の管理を視点にした企業と病院の権利,義務の立場を明確にした運営方針が望まれるものと思われる.

 電子カルテ契約料が当初は高額な設定が予想され,これを導入した病院では経営を圧迫することは確実である.それに対して各病院は診療単価の上昇にて対応し,国民医療費が増加する結果となる.したがって先に示されたガイドラインの電子カルテの3条件,3責任による要件設定を軸に,公的機関が電子カルテ加算設定などを行い,電子カルテ契約料の適正化を誘導していくことが,薬価の引き下げ策と同様に進めなければならないと思われる.また,病院群や診療所群としては早い段階に価格の適正化の施策をとるよう厚生省など公的機関に働きかけることも必要と思われる.

      文     献

 1)診療録等の電子媒体による保存について.厚生省健康政策局長,厚生省医薬安全局長,厚生省保険局長.平成11422日.

 2)法令に保存義務が規定されている診療録及び診療緒記録の電子媒体による保存に関するガイドライン等について.財団法人医療情報システム開発センター.平成11311日.

 

 

 

 

 

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