原著論文

 

小児気管支喘息におけるゼラチン特異的 IgE抗体の陽性率

 

梶ケ谷保彦,他

 

Positive gelatin-RAST in childhood asthma

 

      は じ め に

 ゼラチンアレルギーによる予防接種後の健康被害が明らかとなって以後,予防接種製剤にゼラチンが含まれていないロットが整備されてきているが,いまだにゼラチンを含む予防接種が存在すること,またアレルギー疾患の代表である小児気管支喘息患児の500例をこえる母集団でのゼラチン特異的IgE抗体保有率についての報告がないことから,今回,われわれは横浜市栄区周辺地域の小児気管支喘息患児565名における血清総IgE値およびゼラチンを含む各種抗原に対する特異的IgE抗体の陽性率について検討を加え,予防接種の安全性確保の立場からアレルゲン検査の重要性について考察したので報告する.

      対 象 と 方 法

 対象は乳児から15歳までの当科で経験した気管支喘息患児565名で,男児321名,女児244名,平均年齢 6歳5か月であった.期間は98年4月1日から99年3月31日までの1年間に受診した患児を対象とした.

 血清総IgE値は蛍光酵素免疫法(FEIA)1)で測定した.特異的IgE抗体はCAP-RAST法2)で測定した.測定項目はゼラチン,ランパク, 牛乳, 大豆, 小麦, 米, ヤケヒョウヒダニ, ハウスダスト1, スギ,ネコのフケ, イヌの上皮の11種類について検討した.対象症例は全例,血清総IgE値を測定した.

       結    果

 小児気管支喘息における血清総IgE値およびゼラチン以外の各種抗原の陽性率については既にわれわれが報告3)しているのでここでは省略する.今回のゼラチン特異的IgE抗体の解析対象となった1年間全体の測定検体数は565検体であった.表1にゼラチン特異的IgE抗体陽性例の検査結果を示す.ゼラチン特異的IgE抗体陽性例は14例で,2.47%であった.1歳〜5歳までの群(11例)と10歳から14歳までの群(3例)がみられ,平均年齢は5.07歳であった.血清総IgE平均値は,1歳〜5歳までの群で770 IU/ml,10歳から14歳までの群で5,450 IU/mlと学童児に高いが,ゼラチン特異IgE抗体価が1.0 UA/ ml以上の症例は10歳から14歳までの群にはみられす,1歳〜5歳までの幼児例の群で7例あった.検索したその他の食物がすべて陰性でゼラチンのみ陽性例は4例あり,さらにゼラチン以外の検索抗原がすべて陰性であった症例が1例みられた.

       考    察

 近年,ゼラチンアレルギーに起因する予防接種時のアナフィラキシー症状出現の症例報告が増加するにつれ,予防接種製剤にゼラチンの含まれていないロットが整備されてきている.しかし,2000年2月の時点では36種の製剤中,いまだ16種の予防接種製剤にゼラチンが含まれていて,アレルギー疾患の代表である気管支喘息患児の接種は症状出現時の対応策を含め慎重に行わなければならない.しかし気管支喘息患児のゼラチンに対する潜在的アレルギー保有率が不明であったため気管支喘息患児をかかえる小児科医は漠然とした不安のもとに問診を行い予防接種を実施してきた.

 グミキャンディなどゼラチンを使用した食品の経口摂取によりあらかじめ感作されたと思われる症例にゼラチンを含むワクチンを初めて接種した際に症状を呈する初回接種例があること,またこれらの症例ではゼラチンの経口摂取によるアレルギー症状を呈した症例は7.7%4)とすくないことからワクチン接種前に問診によりゼラチンアレルギーを予知できる症例は極めて少ないことが問題となっている.そして経口的にゼラチンに対して潜在感作されている症例が以外に多いのではないかと推測されているが実態が不明であった.そして,アレルギー疾患の代表である小児気管支喘息患児の500例をこえる母集団でのゼラチンアレルギー保有率についての検討報告もみられないことから,今回,565例の小児気管支喘息におけるゼラチン特異的IgE抗体保有率を検討した.その結果,約2.47%(約40人に1人が陽性)の患児が陽性で,潜在的感作の存在が明らかとなった.また,検索したその他の食物がすべて陰性でゼラチンのみ陽性例は4例あり,さらにゼラチン以外の検索抗原がすべて陰性であった症例が1例みられること,血清IgE値が30 IU/mlと低値例にゼラチン特異的IgE抗体陽性例のみられることから,ゼラチンを含む予防接種施行時に,卵アレルギーや牛乳アレルギーのないこと,ダニやハウスダストが陰性であること,血清IgE値が低いことが必ずしも安心材料にならないことが示唆された.したがって予防接種の安全性確保の立場からは気管支喘息患児ではゼラチンのアレルゲン検査が重要と思われる.したがって以上の検討よりすべての予防接種製剤が1日もはやくゼラチンフリーのものとなることが期待される.

 

       文    献

 1)竹内透.小児の血清IgE値に関する研究.アレルギー,30:976-984, 1981

 2)国分二三男,岡田陽子,洲之内建二,他.特異的IgE抗体検出法およびアレルギー診断におけるCAPシステムの有用性について.臨床免疫,22:1722-1730, 1990

 3)梶ケ谷保彦,栗山智之,岩崎志穂,他.小児気管支喘息824例における血清IgE値と特異的IgE抗体に関する検討. 神奈川医学会雑誌, 24:171-175, 1997

 4)阪口雅弘,井上栄,小倉英郎.ワクチン接種後,即時型アレルギー反応を起こした小児血清中のゼラチン特異IgE抗体の測定.アレルギー,44: 959, 1995

 

 

 

 

inserted by FC2 system